梅田望夫『ウェブ進化論』(ちくま新書)


兄に激しく勧められての購入。売れているようで、一店目では品切れで入荷待ちとのことだった。二店目では普通に棚に一冊残っており、購入。はてなの取締役である著者が、現在のネット世界に革命の進行を見出し、その内容を平易に説明している本。新書かくあれかしという啓蒙本。まだ序盤(第二章の途中)までしか読んでいないが、刺激的で面白い本だ。


序盤の論の骨子は、今までは物質世界の延長でしかなかったインターネットが、それ自体大きな経済圏となってきた、になるか。それを象徴する企業としてグーグルが挙げられている。著者はグーグルについての一般的認識を「検索エンジンを無償提供している会社でしょ・・・(p14)」程度のものだとしているが、僕などまさにそうだった。著者はそのイメージの誤り(というより単純さ)を訂正するところから、論を展開していく。グーグルに勤める友人の言葉の引用がイントロなのだが、これが実にすごい。


「世界政府っていうものが仮にあるとして、そこで開発しなければならないはずのシステムは全部グーグルで作ろう。これがグーグル開発陣のミッションなんだよね(p14〜15)」


10年前なら、「おお、SF的!」とか、失笑交じりの薄汚い笑いでも浮かべていればよかっただろう。でも、あの検索システムに数年来お世話になっている身では、まったく笑えない。むしろ、「無料の検索システム」の背景に、そのような雄大な思想があることに戦慄を覚えるべきか。すげーよ。


序盤で語られる著者の、「ネットの向こう側」と「こちら側」を対立項として捕らえ、前者の後者に対する優越の趨勢を語るビジョンは、その内容自体はどこか聞きなれたものだ。5〜10年ほど前、インターネットの勃興時にも、リアルな世界に対するネット世界の膨張が語られていた。それは当時の、回線や記憶装置等のリソースの貧弱さと相反するように、ネット世界の全面的優越に一足飛びに飛躍する、悪く言えば現実から遊離したもので、僕の好きなアニメで言えば、『Serial Experiments Lain(1998)』がそのような作品だったと思う。そうしたイメージではない現実の商品としても、著者自身が早すぎた失敗作として触れている「NC(ネットワークコンピュータ)」などがあった。ただ、当時と今とが違うのは、リソースの充実を背景に、まさに現実的な対象として、いま少し具体的に言えば金儲けが出来る場所として、ネットが成り立っていることだと思う。グーグルそのものはもちろん、オークションをはじめとしたネット・ショッピングの盛り上がりは記憶に新しい。あれだけセキュリティ上の危険が叫ばれていたはずの、インターネット上での商品売買の決済が当たり前になったのは、いつからだろう。アフェリエイトの興隆(ここにもグーグルが深く噛んでいる)もそうだろう。そこに使われている技術の更新の早さも驚くべきもので、これまた作中で触れられているグーグル・マップサービスなど、つい先日その内容に驚かされたばかりだ。今更デスかそうデスか。


続きを読むに当たっては、このネット世界の経済化の流れの中で、日本に住む一介のIT技術者、それもスキルレスで、どちらかといえば著者の言う「持たざる者」の側である自分がどうしていくべきか。これを考えながら読まねばならないだろう。この本はそれだけの、自分の人生プランと照らし合わせて読むだけの価値のある本だ。無論、眉につばをつけつつだが。率直に言って、僕のようにセキュリティを第一に考え、システムの保守運用や小規模のDBアプリの開発などをやっている者には、グーグルなどの活躍するネット世界は、あくまで広告と娯楽コンテンツの流通をメインとした場所に思えて、いまひとつピンとこない。かといって、俺にゃカンケーネーで済ますには、著者の描く革命のビジョンは魅力的に過ぎるし、無視して専念する気になるほどの既得権益を今の仕事が与えてくれるわけでもないので(泣)。


ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

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