須田慎一郎『下流喰い』(ちくま新書)


消費者金融(所謂『サラ金』)のビジネスモデルを批判的にまとめた本。消費者金融業界への怒りに駆動されている面が強く、数字による分析の一部には、この本を必要とするような「数字に弱い債務者」に対しては言葉が足りないのでは、と感じるところもあるが、良書といえるだろう。消費者金融の被害者の悲惨な記録も多く収録されているが、ここではその紹介は置いて、本書の批判対象である消費者金融のビジネスモデルのあくどさについて、理解できた範囲で紹介したい。


消費者金融のビジネスモデルとは、「高率の利息収入を半永久的に取り続ける」というものだ。融資は通常、一社で20万〜50万程度。通常の借金なら、分割回数から返済終了日を確定した上で、利息分を追加した額を分割返済することになる。消費者金融の場合は、分割回数を問われず、元本のごく一部+利息分だけ支払えば”まわせる”代わりに、利息は月ごとに債務残高から算出・追加される。で、ここが肝なのだが、債務者は、利息分だけしか返さなくてよいなら、そうしてしまうことが多い。資金繰りが苦しいからだ。


これだけなら、少々悪質ではあるが、借りてまともに返さない奴の方が悪い、ご利用は計画的に、という話ではある。問題は、利率が高すぎる、という点だ。会社によって違うが、年率25%〜29.2%。これが、近年話題の「グレーゾーン金利」だ。なぜグレーなのかというと、金利の上限を定めた法律が2つあるためだ。民法の利息制限法では、金利を年15%〜20%(額によって異なる)以内に収めることが義務付けられている。しかし、利息制限法には罰則規定が無い上に「金利超過分を任意に支払った場合、返還を請求できない」なる例外(ようは「自分が納得して払ったんだから返せとは言えない」)が認められており、結果的にザル法になっていた。そこで、消費者金融をはじめとした各社は、出資法なる法律(罰則規定あり)の定める年29.2%の金利を上限として採用し、よって彼らの金利はおおむね年25%〜29.2%となっている。この利率に従うなら、100万借りたら、たった1年で125〜130万に膨れ上がるということだ。返済の苦しさから、せっかく減った元本を、再度限度額まで借金してしまう、といった本末転倒の事態もまま発生する。これを「ベタ貸し状態」というそうで、消費者金融は利息だけを半永久的に取れることになる。この状態こそ消費者金融のビジネスモデルの理想形で、そうした顧客が消費者金融にとっての「理想の顧客像」だそうだ。頼みもしないのに融資枠を拡大し、強引に貸付を行うような悪質なやり口もあるという。ひいては、返済のために別の消費者金融と契約してしまう。多重債務者の誕生だ。


多重債務が膨れ上がって200万にもなってしまえば、一般的な債務者に捻出可能な月返済額であろう4万5千円で、ようやく月々の利息分にしかならなくなる、とのこと。精一杯捻出しても借金が「減らない」のだ。早晩、もっと劣悪な闇金の手に落ちることになる。消費者金融側は、「利率を落とせば審査を厳しくせざるを得ず、結果として多くの顧客に融資できなくなり、闇金の跋扈に繋がる」という論法で、利息制限法の厳格な適用を拒否してきたが、やはりこれは我田引水の詭弁というべきだろう。著者もp47で、今年1月の最高裁判決で利息制限法の優越の確認、グレーゾーン金利帯の事実上の否定が示されたこと、そこから行政もグレーゾーン金利帯撤廃に向けて本格的に動き出したことを挙げている。そして、「いまや過払い金返還請求訴訟を起こされれば、消費者金融会社側が必ず負けるという図式が定着しつつある(p.48)」状況となっているそうだ。


しかし、消費者金融といえば、過去の僕のようなギャンブル狂いで身を持ち崩した人間が利用しているものだと思い込んでいた。そうではなく、メイン顧客は、不況で住宅ローンや生活費が払いきれなくなった、普通の壮年〜中高年サラリーマンや主婦ということだ。若年層への浸透は、女性タレントを使ったイメージ戦略で敷居を下げると共に、さらなる顧客の拡大を狙って審査基準を引き下げた近年の傾向だという。文字通り「家庭」が壊れているということか。


恐ろしいのは、こうした商売をしているのが、いわゆる狭義の消費者金融だけではないことだ。消費者金融大手のプロミスとアコムが、現在では大手銀行の傘下に入っている、というだけの話ではない。僕は以前「洋服の青山」の会員カードを持っていたが、これには「ライフカード」なる信販系会社のクレジットカード機能がついていた。そのカード、金利が28.8%だった。プロミス(25.55%)より高いよ。調べたところ、消費者金融二大悪玉の一つとして本書で糾弾されているアイフルの子会社だったわけだが。ちなみに、もう一つの悪玉は、あのダンスCMで有名になった武富士だ。
また、現在唯一所持しているクレジットカードは三井住友銀行のものだが、これはショッピングリボ15%、キャッシングリボ18%と、利息制限法の範疇ではある。ただ、ずっと5万円だったキャッシング枠が、3年ほど前から頼みもしないのに10万円になり、それから1年ほどで40万円まで膨らんだのは、大手銀行ですらこの消費者金融型のビジネスモデルのおいしさに預かろうとしたということで、同じ穴の狢というしかない。というか、上に挙げた「プロミスを傘下におさめた大手銀行」というのは三井住友だったりする。ようは、本書第二章『悪魔的ビジネスモデル』の「メガバンクの進出(p66〜)」で説明されている通り、消費者金融を傘下におさめることで、参入リスクを減らすと共に商売のノウハウと格好の融資先を手に入れたということなのだろう。その中で、グレーゾーン金利での汚れ客相手の商売は消費者金融信販系に任せて、己は焦げ付きリスクの少ない自らの既存顧客から、利息制限法の範囲で堅実に儲けようとしている、ということか。
ちなみに、アコムを傘下に収めた大手銀行は三菱UFJで、俺の唯一の銀行口座はそこにある。申し込んでないけど、アプラス・プロミスと組んだ『モビット』や日本信販と組んだ『UFJニコス』などのカードローン機能があるでよ。やっぱり15%〜18%。
残る三大メガバンクの一角であるみずほ銀行FGは、メガバンクでは唯一消費者金融との提携をしておらず、それを誇りともしているようで、カードローンも11.6%〜16.6%と抑え気味。ただ、提携会社を見ると、信販系のオリコとクレジットカード会社のクレディセゾンが、最高金利25%のカードローンをやっている。消費者金融じゃないってだけで、控えめであってもグレーゾーン金利であることに変わりは無い。本当、大手銀行もクソばっか。


著者の消費者金融への怒りの一端には、生まれ育った東京都足立区の現在の風景があるのだという。長引く不況で、児童生徒総数の半分が就学援助を受けている街。寒々しい街の中、消費者金融ブースは繁盛しており、日々の暮らしに汲々とした住民がそれを利用して、さらに自らの首を絞めている。『庶民金融』なんて絶対に名乗らせない、という強い怒り。
僕の住む関西のとある街も、某私鉄のいくつかある駅ビルのうち、最も寂れたビルの最上階が丸々消費者金融ブースになっている。薄暗く通路も狭く、なんとも言えない異臭手前の不快臭まで漂っているせいか、地下から2Fまでは年中シャッターが下りている空テナントばかりのそのビルの中で、最上階である3Fだけがフル稼働なのだ。人気は少ないものの、10社を超えそうな消費者金融のテナントが所狭しと立ち並び、ビルの外壁には消費者金融の看板が並んでいる。パチスロを止めて、こういう本を読むと、駅の周辺にパチンコ屋のネオンが輝き、消費者金融の看板が立ち並ぶ街の風景は、おかしいのではないか、と改めて思うようになった。


金貸しが悪だなんて暴論を述べるつもりは無い。投資家がいないと世界が成り立たないって程度のことは分かってるつもりだ。ただ、金貸しにも程度の違いがあるし、程度の低い金貸しに濡れ手に粟で稼がせていいかどうかは別の話だと思う。


下流喰い―消費者金融の実態 (ちくま新書)

下流喰い―消費者金融の実態 (ちくま新書)