斎藤成也『DNAから見た日本人』(ちくま新書)


タイトルどおり、「日本人」の遺伝的組成を求める本。このテーマなら現時点では最先端・王道の学問であり、自身の専門でもある分子人類学に立脚しつつ、考古学や言語学(音韻分析)の成果も援用しており、総合力に優れた日本人来し方論になっている。そして、こうした起源研究が、最終的には「日本人」の解体に帰結することも著者は十分自覚しており、むしろ積極的に押し進めたがっている節さえある。


ただ、読後に最も印象に残ったのは、日本ではなく中国に関する調査だった。春秋戦国時代の有力国「斉」があった臨淄という地域(山東半島の付け根)で、遺跡から2000年前(前漢末期)と2500年前(春秋戦国時代中期)の遺跡の人骨からミトコンドリアDNAを採取し、合わせて同地方の現代人からも採取した。その、同一地域の三時代のミトコンドリアDNA分析結果を、ヨーロッパ・中央アジア・東アジアの現代集団の採取結果からなる現代ミトコンドリアDNAマップの上に重ねてみたという。当然、現在の臨淄の住民の調査結果は、東アジアのサンプルに重なった、それに対して、2000年前の採取結果は現代中央アジアの集団に重なり、2500年前の採取結果にいたっては、ヨーロッパの現代集団に接近した結果が得られたのだという。


つまり、古代の中国には、現在の東アジアに住む人々とは遺伝的に大きく異なる人々が居住していた可能性がある、ということのようだ。中国の歴史物語には幼い頃から親しんできたが、想像の中の彼らは、大体日本の戦国時代のイメージで置換されていたように思える。平たく言えば横山三国志。だまらっしゃい。しかし、2000年以上前の中国では、金髪碧眼・白皙の貴公子が馬を飛ばしていた可能性もあるのだ。歴史ファンの女性においては、妄想の翼をより高く浮かび上がらせることが出来るのではないだろうか。私は白人のお姫様にはあまり萌えないので残念だ。


中国モノとしてまず思いつくのは三国志だが、紀元200年前後の話なので、この調査結果からはほんの少し後でしかない。演技か正史か忘れたが、関羽だの張飛だのは、2mを越える偉丈夫だったという話で、昔の黄色人種としてはでかすぎると思っていたのだ。諸葛亮ですら、190cmオーバーだ。長身白皙の宰相。萌えるのではないだろうか。


まあWikipedia諸葛亮の肖像画を見れば、二千年の恋も冷めてしまうわけだが。関羽に至ってはなにやら、ジャーン!ジャーン!ジャーン!『げえっ、関羽!』という曹操の怯えようも無理からぬ・・・というより、妖怪にしか見えない。神様化したあとの絵だったら呪われそうなので取り消しておく。


DNAから見た日本人 (ちくま新書)

DNAから見た日本人 (ちくま新書)