サラ金とパチスロ


グレーゾーン金利について考えて思ったのが、やはり消費者金融業界とパチンコ業界はパラレルなのかな、ということだ。駅前の風景の話だけではなく、消費者金融業界におけるグレーゾーン金利の撤廃と、パチスロ業界における4号機から5号機への流れはほぼシンクロしている。


パチスロには機械割という、「コインを入れたらどれだけ戻ってくるか」というパーセンテージで表される指標があり、機種ごと、設定ごとに、ある程度のゲーム数を消化したらその機械割に収束することを想定した仕様で造られている、たとえば設定3に多い機械割100%なら、理論上はプラマイゼロ、ということになる。パチスロ機がホールに設置されるためには、事前に「検定」というテストを受けなければならない。過度の射幸心を刺激することがないよう、規定の試行プレイの結果がパチスロの規格で許されている機械割の範囲内に収まることを確認したうえで、設置許可が下りるのだ。4号機から5号機の移行は、端的に言えば機械割の幅をより100%近辺に抑えよう、勝つにせよ負けるにせよ、額を押さえよう、という変化だ。


稼動しているうちではもっとも古いパチスロ規格である4.5号機では、機械割はだいたい90%〜120%位になっている。設定1で機械割90%の台を丸一日=8000ゲームも打ってしまうと、投入コインは1ゲーム3枚のため、8000*3=24000枚がイン。そのうち、90%しか戻ってこないので、差し引きマイナス2400枚、等価交換(コインの借り賃と返し賃が同じ)なら48000円のマイナスとなる。ヴォロ負けである。逆に設定6で120%の台を8000G打てば、24000*0.2の4800枚、等価交換で96000円の大勝利だ。問題は、ホールに置いてある遊戯台のほとんどが設定1であり、客のほとんどが負けるべくして負ける事になっている、ということなワケだが。この機械割はあくまで長期的なものであり、短期的(一日単位)では、セテイ1での大勝もありうる。それがまた、ギャンブラーの心理をくすぐるのだ。


僕は4.5号機の末期からしか知らないのだが、その末期4.5号機すら、それ以前の機種の射幸性を抑えた結果できあがったものらしい。たとえばAT機という、大当たりの際にボタンの押し順をナビゲートしてコインを獲得させるタイプの遊技機があったのだが、これは「検定時は全てボタンは順押し」という、検定方法の裏をかいたものだそうだ。検定の時には「押すボタンの順序を間違えている」ため、機械割は低くなる。実際の遊戯時はナビに従うので、検定時の想定を大きく越えた量のメダルが獲得できることになる。AT機では『ミリオンゴッド』という、借金や自殺などで社会問題になり、パチスロの射幸性抑制のきっかけとなった台が有名だが、設定不問で終日プラス30000〜50000枚オーバーがあり得たそうだ。ミリオン(1日で100万円プラス)が現実に起こりえた反面、10万円を握り締めて朝の10時から打ち始めて、昼過ぎで空の財布を持って帰ることもありえたという。打ったことがある中では『デカナナ3』がそれに近かった。とにかく、ベルが揃わずコインの返しが無いから、どんどん金が減っていくのだ。500G回すのに25000円かかった。AT機は、4.5号機の末期には開発禁止状態になっていた。


そして、現在のパチスロで主流なのは、所謂4.7号機と呼ばれる規格の機種で、過度の射幸性を押さえるため、4.5号機から機械割を落としているものだ。今冷静に考えてみると、射幸性を抑えろという要請に対してこの規格を出してきたところに、パチスロ業界の恐ろしさがある。例えるなら、グレーゾーン金利を糾弾された消費者金融業界が、かえって金利を上げてきたようなものだからだ。何故かというのは、機械割を見れば分かる。4.7号機の機械割は、おおむね92%〜110%。たしかに、120%が110%になったことで、100000円勝ちが普通に狙えたところが、50000円程度になってしまって、射幸性が落ちてますよね、とは言える。しかし問題は、「下限があまり変わっていない」ことにあるのだ。大きく勝つのは難しいのに、大きく負けるのはそれまでと同じように負ける、ということ。かてて加えて、相対的に低い110%以下の機械割で、4.5号機と同等の瞬間風速を実現しようとした結果、波が極めて荒くなっている。設定6を掴んだのに一日中地を這って閉店、という最悪の展開がままありうる機械になってしまっていたのだ。事実、4.7号機では、設定6での勝率すら、4.5号機までは90%前後あったものが軒並み70%前後まで落ち込んでしまった。勝ちにくい台を背に客離れが進み、設定が入れられなくなり、残ったパチスロジャンキーからさらに低設定で巻き上げる、という悪循環だった。


5号機では、機械割はほとんどの機種で大体97%〜108%のようだ。一部の機種で上限を110〜115%までがんばって引き上げている機種はあれど、下限を極端に下げている機種が無い点で、4号機とは大きく様変わりしている。加えて、検定時の試行プレイ数のパターンを増やし、比較的短いスパンでも想定した機械割の範囲に収まる(波が穏やか)ことを確認しているそうで、ATやストックなどの故意に爆発的な出球をもたらす機能を持たせると、必ず検定に落ちるようになっているようだ。その分、単調でつまらないと感じることも多いようだが・・・。


パチスロ業界では、開発側、ホール、マスコミ共に、このような5号機に対する批判が強いようだ。曰く、スリルが無い、つまらない、儲からない。ただこれは、開発側、ホールはもとより、ユーザー側に立つべきパチスロ雑誌などのマスコミ、そこで記事を書いている誌上パチプロの方々も含めて、これまでの偏った業界で儲けてきた既得権益者の発言というより他無いだろう。パチスロ雑誌やまんがでの誌上パチプロやライターによる取材記事、コラムやまんがには、読者として楽しませてもらってもいたので、あまりこういう言い方をしたくはないし、いろんな意味で例外もいらっしゃるが。ただ、誌上パチプロの実戦機種があいも変わらず4号機ばかりなのを見ると、やはり5号機では「生活」するのも記事にしたてるのも難しいのだな、と思わずにはいられない。


また、パチンコとパチスロの射幸性はシーソーのようになっていて、一方が落ちれば一方が上がり、まま逆転してきた歴史がある。そのため、数年もすれば揺り返しが来て、元に戻る、と考えている人も多い。僕もそうだった。ただ、消費者金融グレーゾーン金利撤廃の動きを見ていると、そうはならないのではないか、という気がしている。事実、パチスロの規制と入れ替わりに連荘確率の引き上げなどの新規格が発表され、射幸性上昇の波に乗るかと思われたパチンコでは、1年ほど前に『ぱちんこウルトラセブン』という極悪台が出た。パチンコ版ミリゴか、3回連荘機の再来かというような機種で、1000円で17G位しか回らない台で、2700G当たりなし、というのを見たことがある(おそらく時短が当たっていたのだろうが)。16万円以上を飲んで、何も出さず終わり、だ。しかし、この機種以降、業界は射幸性を規制する方向に戻っている。パチスロにしても、庶民の娯楽を目指すならば、機械割をまた90%前半まで引き下げることはもう許されないだろう。まして4.7号機のようなものはもってのほかだ。


前の会社で大いに世話になった上司が、『昔のパチンコは数千円あれば、けっこう長く、楽しく遊べたんやで』と懐かしそうに話していたことを覚えている。その後、『今のは一瞬やもんなあ、怖くてようやらんわ。君もほどほどにしときや』とも言われた。俺は(略)。俺はもうやるつもりは無いが、パチスロ業界が本当に「勝てなくとも、数千円で数時間は楽しく遊べる」遊戯を目指すのであれば、あの業界にもまだ望みがあるのではないだろうか。