物理学徒とテロリズム(機本伸司『神様のパズル』)


女目当てで研究室を選ぶ人畜無害のダメ大学生である綿貫は、素粒子加速器の設計者にしてひきこもりの穂瑞沙羅華をゼミに連れ出す役を担う。綿貫は『宇宙はどうしてできたのか』という根源の謎を穂瑞に突きつけるが、そのせいで彼の卒業を左右するゼミのメインテーマは『宇宙のつくり方』となり、しかもディベートでは穂瑞と二人で「作れます」側に立つことになってしまう。就職活動もせねばならない。その上、行きがかりでの農業の手伝いにまで深入りしてしまう綿貫の明日はどっちだ!という話。

前半はコミカルで、穂瑞がアホ綿貫の発想にブレイクスルーのきっかけを求め、けったいなことを喋れと強要するくだりなど、実によい。しかし後半では物語は加速度的にカタストロフ的方向へシフトしていく。研究の閉塞と個人的な悩みとが重なった穂瑞が自爆テロに近い暴挙に出るのだ。この展開は、唐突の感をぬぐえなかった。救いは、これまた進退窮まった綿貫が、稲の世話に心の安定を求める切なさが真に迫っていたこと。彼が暴挙を遂行しようとする穂瑞を止めるためにかけた言葉はよかった。映画になるらしいが、いっそのこと農業振興映画にするくらいのつもりでよろしく。