作者の非ラノベ作品ホームラン第一号(桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』)


この作者さん、ラノベ以外の作品はこれまでポテンヒット続きという印象だった。そのため、ラノベ出身作家の中で寵児化しているのは、ぁぃぅぇぉパワーか、他がよほどダメなのか、と疑っていた。ようは『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』と『Gosick4』を読めない人たちは不幸ですね、と。えらそうに。そこにこれ。傑作。
製鉄を営む田舎の名家、赤朽葉家の3代の女性たちを描く、3部構成。地方の製鉄の村の近代史というバックボーンを導入したことで、非ラノベではひ弱だった小説の土台が出来た。物語の起源には、境外の人々、千里眼といった、土俗的・オカルト的な要素が厳然と存在するのだが、その導入と使い方も巧みだ。内容も湿ったり熱かったり多彩だ。象徴的なキャラクターが第二部の主人公の毛鞠か。丙午の女として伝説的レディースの頭となり、長じては自伝レディースマンガの売り上げで傾きかけた家を守る様は怒涛にして圧巻。
精神史の変遷の理解も簡潔にして的確だが、それに淫せず、それぞれの時代の人々の些細な逡巡を丁寧に描いている、これぞラノベ作家などと勝手にうれしがっている次第。
その上、ミステリー的サプライズまである。参りました。