内山高志にリアル・リカルドマルチネスとのビッグマッチの話が!


降って沸いたように凄い試合の話が出てきたのは、1週間前くらいだったろうか。


WBAスーパーフェザー級王者 内山高志 VS WBOスーパーフェザー級王者 ミゲル・アンヘル・”マイキー”・ガルシア


王座統一戦だ。加えてRing Magazineという世界的ボクシング業界誌によるスーパーフェザー級最強認定も架かる。


内山高志。現在WBAスーパーフェザー級王座を完勝で8度防衛している、現在の日本ボクシング界の第一人者。
「あとはまともな相手だけ」内山の評価にずっと付きまとってきたこの冷たい言葉。

そこに突然出てきたVS”マイキー”の話。

日本のボクシングファンにこの話がどれだけ衝撃か、おそらくファンではない人たちには中々伝わらないだろう。
今のボクシング界は、本拠地を異にする強豪選手同士の対戦が中々組まれない状況になって久しい。たとえば日本のジムに所属する世界王者と、本場である欧米、中南米のスター選手との試合は、ほとんど組まれたことがないのだ。それぞれがそれぞれの本拠地で、少し格の落ちる選手に勝ち続ける、そういう図式が当たり前になってしまった。
数少ない例外は、たった二戦。日本のボクシング史に屹立する二人の名ボクサー、長谷川穂積西岡利晃
長谷川なんて、お茶の間にも名前が浸透している近年唯一のボクサーだろう。ちなみに二人とも、破れてしまった。本場のスター選手とは、彼らが負けるような相手なのだ。


内山VS”マイキー”も、世界中の金も力もないファンが「見てえなぁ」「そうだなぁ」「でもやんねえよな」「だな」と、世界中の掲示板やSNSで管をまく類の話でしかなかった。噂話にすら上らないのだ。


それが、この話の出所は噂どころか、”マイキー”をプロモートしている超有名プロモーター、ボブ・アラム本人だった。


http://www.boxingnews24.com/2014/03/arum-says-no-to-yuriorkis-gamboa-vs-mikey-garcia-fight/

そしてこの記事の内容を伝える日本ボクシングニュース。
http://boxingnews.jp/news/11608/


アラムの発言の要旨は「最初に考えてた相手が業突く張りで法外なファイトマネーを要求してきやがったので、そいつとの試合は止めにした。”マイキー”にはスーパーフェザー最強である内山との戦いをやらせたい。場所はマカオを考えている。内山陣営との話し合いの予定も既に決まっている」というものだ。


アラムは近年マカオに新たなボクシングメッカを作り、アジア人の客をとりこむプランに力を入れている。一昨年オリンピックで金メダルを獲った村田諒太の共同プロモーターにも名前を連ねており、村田の第三戦がマカオで「リングオブゴールド」の名の下に、金メダリスト三人の競演として行われたのは記憶に新しい。一方、アメリカのテレビ局との関係で、既に名を挙げたスター選手の試合はマカオでは行われていない。そういう新旧の流れのせめぎあいの中で、ついにスター選手のカードを切って、マカオにボクシング市場を広げる勝負に出てきた。そういう、ある程度信憑性のある話なのだ。
裏を返せば、"マイキー"も、強さはともかく、こと稼ぎの額でいうと、未だミリオンダラーファイター、トップ中のトップではない、という話ではあるのだが。たしか前の試合が72万ドル=約7000万円らしい。次が相手次第ではミリオンダラーファイトってとこかな。


まあそんなことより、日本の人たちからすると、「”マイキー”って誰?」となるだろう。
そこで、日本のマンガファンなら分かるあるフレーズで、ある程度”マイキー”の存在感を伝えたいと思う。どこまで正確かは置くとして。


リアル・リカルド・マルチネス


そう。『はじめの一歩』のボスキャラだ。


なぜマイキーがリアル・リカルド・マルチネスなのかというと、リカルド・マルチネスには実在のモデルがいる。リカルド・”フィニート(素晴らしい)”・ロペス。
1990年代に活躍し、二階級制覇、世界戦での勝利数は20を越え、アマチュア、プロを通じて無敗のまま引退したメキシコ人ボクサー。


リカルド・ロペスの試合映像総集編動画


ボクシングに関心のない人でも「これは強いな」と伝わるのではないだろうか。伝わると思いたい。優男な風貌にある意味お似合いだが、それこそエクササイズのように足も体も常に動いて止まらず、相手のパンチを貰わない。それでいて、スカッと倒す。ボクシングの歴史を通じて、五本の指には入るであろうボクサーです。


http://boxrec.com/list_bouts.php?human_id=521&cat=boxer

ロペスの戦績サイトへのリンク。51戦全勝38KO1分け。
キャリア唯一の引き分けは、これも強かった他団体王者との統一戦で、当時既にロペスはキャリア晩年だったのだが「今までジャブにパンチを合わされたことなんてなかったのに貰ってダウンしたので衰えを実感した」とかいう、天才ならではのわけの分からない供述を残していた気がする。再戦でも苦戦の末に辛勝している。それはまあいい。


ロペスには日本にも熱狂的なファンが多く、「リカルド・マルチネスとかあんな雑魚がロペスに勝てるわけないだろ」など、現実と虚構を混同してまでもロペスを称揚する発言がよく見られるほどだった。最軽量級であるミニマム級の選手ということもあって、世界中でも母国メキシコの次に、日本には彼の真価を認めるファンが多いのだ。もちろん森川ジョージ氏もその一人だろう。


ロペス本人の現役時代から、そして引退後も、メキシコから「次のフィニート」が現れては消えていった。
その中には、本当に一生懸命にロペスのスタイルを完コピしていたロペス甥も含まれる。悲しい。


それが、ロペス引退から10年を経て、凄まじい強さで他のボクサーを圧倒し、多くの日本人ファンの口から、期待ではなく試合内容で「これロペスなのでは」という、まさに最大級の賛辞を送られるボクサーが現れた。それが”マイキー”なのだ。


”マイキー”の試合映像総集編動画


ミゲール・アンヘル・”マイキー”・ガルシア。


たしかメキシコ系アメリカ人。真四角なソース顔に厳つい体格、どちらかというと短い手足と、風貌は全然違うものの、ロペス同様の”足も体も常に動いて止まらず、相手のパンチを貰わない。それでいて、スカッと倒す”。スタイルだ。
ただ、人気商売になった現代ボクシング界、ファンに受けるファイトをしないとファイトマネーも上がらない。ので、本家ロペスと比べれば攻めっ気は強く、故に危ないパンチを貰うポカをタマーにやらかすところも、熱心なロペスファンからすると「リカルド・マルチネス」の名に相応しく感じる、かも、しれない。


”マイキー”の戦績。

http://boxrec.com/list_bouts.php?cat=boxer&human_id=364679


こちらも圧倒的だ。34戦全勝28KO。引き分けもまだない。26歳と若い。世界戦でも四連勝中。いちど「意図的な体重超過で王座剥奪、試合は圧勝」という、これまた最近のボクシング界の残念な風潮にハマってしまいもしているが…。


”マイキー”がリカルド・マルチネスなら、じゃあ内山は誰なのだ、ということになると、一番近いのは伊達英二だが、内山はアマチュア時代にオリンピック出場を逃したとはいえ、プロでは未だ挫折を経験していない。
あえて言ってしまえば、鷹村だ。実際、内山の試合内容は、実に鷹村的な「たまにポカもするけど圧勝」なのだ。

マイキーマイキーと”マイキー”のことばかり書いてきたが、指名試合(統括団体が課す最強の挑戦者との義務試合)でも圧勝続きの内山にとって、この試合は「組まれるべき、組まれて当たり前の試合」だったりもする。


世界戦防衛序盤までの総集編

最初の指名試合KOシーン

次の指名試合KOシーン


内山の戦績

http://boxrec.com/list_bouts.php?human_id=323521&cat=boxer

21戦全勝17KO1引き分け。8度の世界王座防衛は、ダウン2回を含むとはいえ、いずれも圧勝である。引き分けは試合序盤に内山が相手の頭突きによって出血し、試合続行不可能となったもの。


圧倒的な勝ち方を続けているからこそ、ボブ・アラムが「130ポンド(スーパーフェザー級の体重のこと)最高の選手」と、今まで日本の選手が送られたのをあまり聞かないような賛辞を送るし、それがただのリップサービスには聞こえないのだ。やることをやってきたからこそ、白羽の矢が経ったのだろう。


あたかも試合が決まったかのようにいろいろ書いたものの、正直なところ、「試合が決まる期待は3割程度」だとも思っている。組まれるべき試合がそうそう組まれない、そういう世界なのだ。


だからこそ、たかが書くことにもほんの少しだが意味があるのではと。