WBC世界ミニマム級タイトルマッチ ○チャンピオン イーグル京和 判定3-0(114-113、113-112*2)4位 ロレンソ・トレホ●


G+で観戦。僕の採点は以下。

R 俺TM 俺TM 一言優劣 俺非TM 俺非TM -
- イーグル トレホ - イーグル トレホ -
派手な動きは無いが、明白にイーグルのラウンド
同上
明白 イーグル、ダウンを奪う
綺麗な有効打でイーグル。ただし、トレホも息を吹き返す
トレホのワイルドなパンチがイーグルを捕らえる。明白にトレホ
明白 トレホ、2度ダウン奪う
小差だがトレホが攻勢を維持
さらに微妙。どちらかといえばトレホ。
トレホ打ち疲れか、イーグルが少し有効打で上回る
10 前半イーグル、後半トレホも、有効打数でイーグル
11 トレホばて気味。中差でイーグル
12 どちらかとすれば主導権のトレホ。イーグルは危険を避けた印象
113 112 - 115 113 -


大苦戦の末の防衛。それも、あちこちで言われているとおり、イーグルの調子が悪かった故の苦戦。凡戦かもしれない。しかしそれでも、マヨール戦に続き、イーグル京和というボクサーの素晴らしさを見せ付けた試合だ、と言いたい。忘れがたい、日曜のダイジェストの衝撃。3Rでダウンを奪い「お、楽勝か」と思わせられたところに、6Rの二度のダウン映像。ハア?ウオ、オイオイオイオイ!と大声が出た。所詮、小熊坂との一度目の防衛戦をテレビで観てからのにわかファンだが、彼がプロでダウン経験すら無かったことくらい知っていた。それが立て続けに二度のダウンを奪われ、あのマヨール戦以上の追い詰められた表情。絶対KO負けだと思った。それが10R、11Rまで試合が続き、むしろ押し返している。泣かなかったし泣きたくもなかったが、この映像を見て泣いてもいいよなと思った。マヨール戦を見ていても信じがたい精神力。そして勝利。
マヨール戦以前は、総合力の高さは疑いない(だって世界戦で苦戦がなかったんだから)反面、パンチにせよ、動きにせよ、ボクサーとして天賦の才と言いうるような傑出したなにかを持っているとは見えなかったイーグル。最軽量階級であるミニマムで、相対的に有能な程度だ、という評価も未だ多いだろうし、僕もそう思っていた。そんな彼が隠し持っていた絶対的な才能が、類まれなる不屈の精神力と、それに支えられた体力・持久力だった。この隠れた美点が、ロデル・マヨールという、資質だけならイーグルを凌ぐかもしれないすさまじいボクサーを相手にして初めて顕在化したところがまた、改めてイーグルの総合力の高さを認識させもした。イーグルは僕の中で、長谷川と並ぶ日本ボクシング界の至宝に昇格した。

そして、イーグルは今回の凡戦でも、その精神力と体力だけは再度証明してくれた。付け加えるならば、相手のトレホにしても、マヨール戦後の安全パイなどではなく、そのマヨールと挑戦者決定戦を争った猛者*1であり、そういう相手を悪いなりに退けたことで、総合力の高さも証明したのだ・・・と言うと贔屓が過ぎるだろうか。


試合については、イーグルの調子が悪かったのはたしかだと思う。なにより、動きにスピードが無い。序盤はトレホが様子見モードだったのもあってか、まだ優位に試合を進めていたが、4Rからトレホがエンジンをかけてきた時点で、それを凌駕するパフォーマンスが出なかったことが歯車の狂い所だろうか。本人の弁のとおり、調整不足で体が動かなかった、ということだろうが、3Rまでよかったのがバテたというより、序盤のイーグルのペースをトレホが凌駕したところで、本来なら出来るはずの、更なるペースアップによる主導権の奪回が出来ず、トレホのペースに屈してしまった。ナメたというのとは違うだろうが、挑戦者のスピードとスタイルに合わせてしまい、5Rからは明白に後手に回る。そして6Rに大きいパンチをもらう結果になった。


動きの悪さについて飯田&セレスという最高の解説陣が指摘していたが、たしかにひざが堅い感じがした。姿勢が高いのはいつものことではあると思うのだが、それが動きの悪さに直結していたところが普段との違い。拳の怪我についてはよく分からない。4Rあたり、パンチに躊躇が感じられるところはあったが・・・。


しかし、こうした汚点を差し引いても、やはりイーグルの精神力は素晴らしい。まずは大ピンチの6R。プロ入り初のダウンを喫し、たて続けにもう一度倒されてなお、あわてて立ち上がらない余裕。クリンチに行かないのはどうかという意見もあるだろうが、あえてボクシングスタイルを崩さず6Rを乗り切った。引き続きトレホの攻勢にさらされた中盤を耐え抜き、オフィシャルの採点上ではスプリットながら優位を確保した形で乗り切った(僕の採点では逆転されていたが)。


これだけでもすごいが、何より素晴らしいのは、終盤にポイントを取り返し、勝利に結びつけたこと。マヨール戦と同様に、ピンチを乗り切るだけでなく、流れをひっくり返してしまう大いなる精神力を見せた。また、調整不足で早い動きが出来なくても、培った持久力・体力はある程度健在だったということでもあるだろう。マヨール戦ほど分かりやすい逆転ではなかったが、トレホの打ち疲れに乗じて、9、10、11Rと、明白にポイントを取り返して見せた。おそらく、8Rでの途中採点と、9〜11Rを優位に進めたことで、11R終了の時点で判定勝利をほぼ確信したのではないだろうか。最終ラウンドは、余裕とまでは行かないが、危険を避けた感すらあった。


イーグルは強いチャンピオンだ。リカルド・ロペスのような、あまりにも分かりやすく他と隔絶した存在ではないかもしれない。今回の試合は、改めて磐石ではないことを暴露した感はある。それも、マヨール戦のように評価を上げる形ではなく、下げる形で。それでも、一定以上のコンディションなら、彼を打ち負かしうる選手は同階級には存在しないのでは、とも感じる。ロペスほどには他の選手を圧倒しないが、もしロペスと試合をしても互角の勝負ができる、それだけのボクサーだと思う。今日のコンディションですら、おそらく苦手なタイプであろうトレホを退けたのはやはり彼の強さだ。


イーグルに「敵」はいるだろうか。現実性に乏しい亀田をおけば、WBAとの統一戦なら新井田か高山であり、WBCの防衛戦なら日本記録の7戦目での世界奪取を賭ける八重樫か、再度のチャンスをうかがうマヨールか。

対戦済みの高山、マヨールでは、一度明白な格付けが済んでいる高山は、進歩があってもなお苦しそうだ。地力の評価が最も高いのはマヨールだが、ファイトスタイルを誤ったとはいえ、体力と精神力の差を見せ付けられた前戦を見るに、再戦でもイーグルの優位は動かないと思える。
八重樫は、東洋タイトルの防衛戦を見たところ、ハンドスピードの非凡さと同時に穴も多い選手と感じた。イーグルとは勝負になるのかすら疑問だ。


となると、やはり新井田なのだった。天才と呼ばれ続けて久しい新井田。世界戦でその名に相応しい最高のパフォーマンスを見せたことは無いが、底をみせたことも無い。若い頃よりはひたむきさやファンへの思いを言葉にしてくれるようになったとはいえ、タイトルを防衛し続ける姿すらどこかけだるげに映る新井田の、まだ伸びしろがありそうな不気味さは何なんだろう。現在僕がミニマム級で最も望んでいるのは、イーグル対新井田の統一戦だ。

*1:4RKO負け