スーパーウェルター級10回戦 ●クレイジー・キム 10RKO ハビエル・ママニ○


今年10月26日、スーパーウェルターという世界的にも層の厚い階級で、日本と東洋のベルトを併せ持っていた王者クレイジー・キムが、世界への道として世界ランカー同士の対決に挑み、敗れた試合を「パソコンテレビGyaO」で観る。結果を知っていて観たが、やはり声が出ない。


キムがWBCの8位だったのに対し、ママニは対抗団体であるWBAの8位。35戦29勝(16KO)5敗1分と、世界ランカーに相応しい実績を持つ。戦績のわりに24歳と若く、デビューが01年11月であり、たった5年で35戦をこなしているところにも、旺盛な戦意が伺える。WBAの世界タイトル挑戦者決定戦に敗れた経験を持ち、世界戦線での生き残りに必死であり、日本の気候に慣れて良いコンディションで試合に臨むためにかなり前から来日するなど、世界タイトルマッチ並みの入念な準備で試合に臨んだということだ。


印象的だったのは、計量の風景。ぶっきらぼうな発言や態度でも有名なクレイジー・キムが、頬はこけているが鍛え上げられた体で計量を終えた後、続くママニに頭を下げ、両手で軽く握手をしたのだ。亀田と嘉陽の試合前の態度を聞いて、なんだかなあと思った気持ちを思い出させて、さらに吹き飛ばしてくれた。彼を見習って礼儀をとか互いに敬意を持ち合うべきではとか、ことさらに言うつもりにすらならない、あまりに自然な所作だった。それだけに潔く見えた。それだけ。


試合では、キムは苦しみながらも、掛け値なしの世界ランカーで、戦意も高く、コンディションも万全らしいママニを相手に、互角以上の戦いをしていたと思う。いつ観ても思うが、中南米の世界ランカークラス以上の選手は、体のバネが素晴らしい。なんでもないような左フックが、物凄い瞬発力と伸びを持っている。中量級以上になると、そこにパワーも加わっていて、人種差というものにため息が出る。そんな相手に対して、キムは丹念にパンチをはずしつつ、ボディブローを基点として、ポイントを上回る形で試合を進めていた。実際、公式採点でも、9Rまでは小差ながらジャッジ三者ともキムを支持していたとのこと。

それでも、試合が進むごとに、被弾率は少しずつ上がっていたように思う。そして最終ラウンドである10R、両者が積極的な打ち合いに出る。その中盤だったか。キムが、それまで致命傷だけは避け続けたママニの危険な左を、もろにアゴにもらってしまう。効いたのが傍目にもはっきり分かった。そこからもよく耐えて互角に近い打ち合いを見せ、残り10秒の拍子木もたしかに鳴ったのだが、それからしばらく経ったところで、ものすごい右ストレートをカウンターでもらって、明らかにKO負け必死の強烈なダウン。それでも一度立ち上がりかけたが、大きくよろけた末に再びロープ際に倒れこんでしまったのが、キムのダメージの大きさを物語っていた。そのままテンカウントで、あまりにも無念なKO負け。


KOタイム、最終ラウンド3分9秒。あと1秒で試合終了、というところでの、強烈な、文句の付けようもないテンカウント。試合後のキムの言葉が「何やってんだよ、俺」だったそうだが、本人にしか分からないことだろうこの言葉の重さが、聞く俺にも圧し掛かるようだ。


キムは世界ランクはWBAはもちろんのこと、WBCでもトップ10圏外に落ちてしまったが、既に再起を表明している。改めて、応援したい。変に間が空かなければ、次もきっと期待させてくれるはずだ。


この試合は「パソコンテレビGyaO」で、2/28(水)正午までインターネット無料試聴可能です。
http://www.gyao.jp/sityou/catelist/pac_id/pac0002102/