独り者の楽園(梨木香歩『家守綺譚』)


個人的現代最高作家の最新文庫落ち

戦前の琵琶湖畔?が舞台か。売れない独り者の物書きの綿貫征四郎は、幾ばくかの金銭を報酬として、溺死した旧友の実家の留守を預かることに。臨時講師のアルバイトも辞して、旧家で文筆業一本の生活に入った綿貫だが、庭のサルスベリに懸想されたり、死んだはずの旧友が掛け軸を通じて訪れてくるのを迎えたり、狸に化かされたり等といった、怪異まみれの毎日を送ることになる。男やもめで稼ぎも少ないため、拾った犬にお隣さんが持ってくるおかずのご相伴に日々与るなど、頼りなく情けない事この上ない生活を淡々と送る綿貫が妙に羨ましくなる、そんな作品だ。
植物の名前を冠した10ページ程度の掌編の集合という体裁なのだが、それぞれの植物は怪異の象徴的な役割を持ちつつ、ただの植物でもある。古い日本の豊かなイメージを喚起する植物と怪異がさりげなく綿貫の生活に絡む描写は見事の一言で、あたかも読者自身が自然豊かで闇を隠した閑村で独り生活しているような心地になる。素晴らしい。
ちなみに綿貫は、京極堂シリーズの関口から鬱を抜いたような塩梅の変人だが、それがいい