WBCフェザー級暫定タイトルマッチ ●1位 オスカー・ラリオス 10RTKO ホルヘ・リナレス 2位○


素晴らしい試合でした。ベネズエラから来て、日本のリングで育った天才、ホルヘ・リナレスが、満を持して上がった世界のリングで戴冠。
何よりもリナレス。抜群の防御技術と、一流ファイターの暴風雨のようなパンチに晒され、下がらされながらも、隙あらばガードの隙間に有効打を打ち込む上手さ。これまた地味なボディブローを丹念に打ち続ける姿勢。鍛え上げられているゆえか、こうした地味なブローにすら垣間見える力感。相手の前進が止まりかければ、すぐさま回転を上げてパンチをまとめ、主導権を奪回にかかる勇気。これらは単純に天才という言葉だけでは片付けられない、日々の鍛錬の結晶なのだろう。ただ、これらの能力を世界戦のリングで、オスカー・ラリオスという一流選手を相手に通用させ、ボクサーとしての圧倒的な優位を見せ付ける様には、やはり天才という言葉がふさわしい。

そして負けたラリオスも素晴らしかった。スキルもパワーも上の天才に対して、1Rから10Rまでひたすら前に出て、パンチを振るい続けた。致命傷は奪えなかったが、打たれることすら少ないリナレスに打撃を加え、苦しめ続けた。スーパーバンタム王者時代には日本ジム所属選手をはね返し続けた難攻不落の王者だっただけに、最後のダウンシーンには切ないものも感じだ。あのラリオスが完敗か、と。


勝利後のリナレスの喜びようと、日本のファンへの感謝には、見ているこちらも幸せな気持ちにさせてもらえた。
この天才が、本場ラスベガスで、TKOでの世界奪取を達成したそのとき、日本語で『やった!』と絶叫し、嗚咽しながら、次の試合は日本でやりたいと言ってくれている。ジョー小泉さんの言うように、日本のボクサーは彼に続いてほしい。世界タイトルマッチ、という言葉にもどこか閉塞感が漂う日本のボクシング。WOWOWで海外の本場の試合を見ているとつくづく思うのだが、日本で閉塞している限り、質の悪い芸能に堕していくというのなら、いっそ一流選手をラスベガスに売り込み、ひいてはヨーロッパを含めて、海外の本場との興行交流に乗り出せないものだろうか。それによって、日本でボクシングが半ば不当に失いつつあるリアリティと人気も、取り戻せる可能性が出てくるのではないか。フィリピンの選手たちがやっているように、リナレスがやってくれたように、今までとは違う、おそらくより鮮烈な形で世界と切りむすぶ道があるのだ。


たとえば、リナレスと内藤大助。この二人が一緒に、時にはラスベガス、時には日本のリングに立つ日が来たら、最高だと思うのだが。ラスベガスの新しいスター候補、IBF世界フライ級チャンピオンのノニト・ドナイレが対戦オファーを出す日本ジムのボクサーは、強いバスケスを破ったWBAチャンプの坂田と、あまりに強かったポンサクレックを破ったWBC王者の内藤の二人なのだから。WBCスーパーフライ級チャンプのクリスチャン・ミハレスが更なる高みに至るべく対戦を目指す日本ジムのボクサーは、WBCバンタム級王者の長谷川穂積なのだから。