『日本銀行は信用できるか』アマゾン書評について


眠れないので、内容に感心した岩田規久男日本銀行は信用できるか』のアマゾン書評を読んでみた。
おおむね好評のようだが、一部批判も存在する。
それはいいのだが、その内容が単なる誤読であるように見受けられる。私は経済学は素人だが、書かれているものをその通りに読む読解力はあるつもりだ。


曰く、

1.170p「日本でデフレが起きる理由」では、「デフレで名目所得が増えなかったからデフレになった」と、以前の著者ならありえなかったような反復的記述がされる。
 昨今の行きすぎた金融緩和を批判する流れを受け、新規軸を打ち出すことを期待していただけに、この路線は残念だ。
2.いくらベース・マネーを増やしたところで民間金融機関による貸し出しが増えなければマネー・サプライが増えることはないのですが、岩田氏の主張では「ベース・マネーの増加=マネー・サプライの増加」という直線的な関係を仮定しています。


1について、170p近辺を読んでみたが、この部分の著者の議論を同語反復と読むのは、本書が訴える全てを読み飛ばしてしまうことに等しい。
著者はここで、インフレ目標を導入しているイギリスと、導入していない日本について、インフレ期待/デフレ期待が全体としての消費者物価に与える影響を比較しているのだ。


イギリスでは、『マイルドなインフレ目標が約束されているために』、安定した名目所得の増加が見込まれる元で、ある種類の物価が下がると、それ以外の消費のために残される所得は増加し、物価も上がる。結果的に、全体としての消費者物価のインフレ率もマイルドなインフレ目標と同程度で安定する。


対する『インフレ目標が約束されず』、デフレ期待の蔓延する日本では、たとえば輸入物価が下がっても、それ以外の消費のために名目所得が残ることが期待できないため、その他の物価も上がらず、全体としての消費者物価も下落する。


つまり本書の主張は「デフレで名目所得が増えなかったからデフレになった」ではない。「インフレ目標が設定されていないので、名目所得が増える期待が持てず、ますますデフレが続く」だろう。

本書をそのまま引用すれば、

日本では日銀が本気でデフレを脱却した上で、二パーセントから三パーセント程度のインフレを目指す金融緩和政策を運営しようとしなかったため、人々の間にデフレ予想が定着してしまった。そのため、人々は名目所得はほとんど伸びないと予想したのである

本書の論点のうち最大のものが『インフレ目標を導入せよ』だ。インフレ目標のデフレに対する効能を語る文章について、主語を読み飛ばして何を読み取るのか。


2については残念ながらどの点についての批判なのかまだよく分からない。
ただ、あえて反証を挙げるなら、本書p48以降には、日銀が実施しているコマーシャル・ペーパー等及び社債の買い入れ導入に対する評価がある。内容は、日銀がそもそも市場に買い手がいるレベルの、リスクの低い社債のみを買い入れ対象にしていることへの批判だ。比較対象になっているのは、FRBがリスクの高い証券の買い入れや担保化による貸し出し『信用緩和』を行ったアメリカだ。


中央銀行が信用度の低いCPを最終的に引き受けることで、銀行や投資家のCP市場への再参入/安定化を、ひいては企業への資金供給を促すという議論だ。これは、『「ベース・マネーの増加=マネー・サプライの増加」という直線的な関係を仮定』という疑義への反証になると思うのだが、どうか。


眠くなって来たがもう4時半だ。最悪だ。


日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)

日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)