桂木萌(坂本真綾)『夜明けの風ききながら』


そもそもは坂本真綾が主人公の桂木萌を演じた萌えアニメ『リスキー&セフティ』のEDテーマであり、キャラクターソングだ。シングルとして発売されたのだが、カップリングは悪魔リスキーと天使セフティのデュエットソングである(余談だがカップリング曲も悪くない)。


坂本真綾の曲の多くは、本作のようなキャラソンの一部と最新アルバム『夕凪LOOP』を除く全てが菅野よう子によるもので、この曲は菅野曲ではないせいか、菅野曲の中でも企画色の強い曲からのベストアルバム『ニコパチ』にも収録されなかった。マイナーアニメのキャラソンということもあり、そもそも所有者自体限られているはずなのだが、にもかかわらずファンの評価はかなり高い。私はこのシングルを発売日に買った勝ち組である。


この曲の魅力は寺嶋民哉作・編曲の落ち着いた楽曲それ自体のよさもあるのだが、やはり坂本真綾の声にある。それも、菅野曲とは一味違うよさが味わえるところがよい。録音環境の違いのせいなのか、菅野よう子が多用する音域より高いところを使っているせいなのか、じつにまろやかなのだ。キャラソンだから媚びた歌い方をしている、という言い方も出来るが、この声に対してそういう表現はしたくない。今の坂本真綾には、この曲での声と歌唱法がふさわしいとは思いづらいだけに、この曲はキャラソンならではの佳曲として、再現を望まず聴き継ぐのが正しいのだろう。


追記:声と曲だけではなく、歌詞でも光るところがある曲なのです。不安の中で震えているような曲調の導入部から、サビで一気に視界が開けるような展開が印象的な曲調に、歌詞もしっかりリンクして相乗効果を出しています。以下は1番の歌詞。

(Aメロ)
壊れてしまいそうでも 泣き出しそうな夜にも 
ミニチュアみたいな言葉 つなぎ合わせてみるから 伝えたい 誰かに

(Bメロ(サビ))
こんなに小さな明りが灯るの 私の体の中に
やさしくなれる 今ならきっと 涙に負けそうな日には
思い出すから 抱きしめてくれた 空色してるあなたの微笑みを いつも


桂木萌坂本真綾)『夜明けの風ききながら』(作詞:濱田理恵))


平凡なアイドルソングの歌詞のような部分もあるのですが、それだけに「私の体の中に」という生々しい身体感覚の表現が印象的です。


そして、Cメロをはさんで華々しい弦楽器に載せて1番の歌詞のリフレインとなる大サビを差し置いて、僕的にこの曲のハイライトである、2番のサビの頭。

あなたの手のひら 花の匂いした 上手に言えないけれど おなかが少し 暖かくなった

桂木萌坂本真綾)『夜明けの風ききながら』(作詞:濱田理恵))


女性の身体感覚はよく分からないのですが、1番同様に不安なAメロの歌詞の後に、「おなかが少し暖かくなった」というこの部分、聞くたびにほっとするのです。この曲を聴き続けているのは、このセンテンスが好きなためもあります。そしてこの暖かさがあればこそ、Cメロの「どこまでも続いてる 透き通る空の果て がんばれば夢だって きっと叶うよね」という歌詞が陳腐に響かず、むしろ最後の大サビへの効果的な橋渡しになりえています。


改めて聴き直してもやはりいいですこの曲。


夜明けの風ききながら

夜明けの風ききながら