新居昭乃『ロゼ・ルージュ』


ついでにもう一曲。僕はどうも大人の女性が少女時代を振り返るというシチュエーションに弱いようだが、これもそうした佳曲のひとつ。新居昭乃はこれまたアニメ関係のキャリアが長い方なのだが、この曲が収録されている1stアルバム『懐かしい未来』は少し毛色が違う。インタビュー記事か何かで見たのだが、後にアニメ関係の楽曲で花開いたようなファンタジックな方向性を望む本人と、ニューミュージック系での売り込みを掛けたいレコード会社側(たしか『部屋とワイシャツと私』の平松愛理のような方向性を求められたとあった)との間に齟齬があり、たしかにこの1stにはアニメ映画の主題歌と、深夜に恋人からの電話を待ちわびる内容の『Ring Ring』のような一般向けと思しきポップな楽曲とが混在している。

そして、その中でも異彩を放っているのが『ロゼ・ルージュ』。間違ってもファンタジーではなく一般向けなのだが、歌詞とメロディには歌謡曲らしからぬ淡い陰影がある。


1番の歌詞は、金曜日になるとバラの花で窓辺を飾り、歌を歌っていた母親の記憶から始まる。
誰かを迎えるようなそのしぐさと、謎掛けのような言葉。

雨の日には 悲しみの 晴れの日には しあわせの
物語があるのよ 人生は そんなもの


ねぇ、ママ それはどんな意味?
口に出せば 壊れそうで
新居昭乃『ロゼ・ルージュ』)


別れを暗喩しているのだろう言葉。娘はよく分からぬながら、それ以上の質問が出来なくなる。


2番では、時が経ったのか、母親の気持ちを理解した娘が歌をせがむ。

花は枯れてしまうけど 熱い想いは 枯らさない
金曜日に失くした 愛が甦る その手の中に


ねぇ、ママ また歌ってよ
退屈な午後を 抱いて


香りが通り抜ける ひとりずつの 淋しさを
赤い薔薇のメロディーが 私にも 微笑む
(同上)


哀愁に満ちていても、所謂「泣きメロ」ではない繊細なメロディもあって、男でも切ない気分にさせられる曲である。


懐かしい未来

懐かしい未来