クレイジー・キム無念

<プロボクシング:スーパーウエルター級10回戦>◇26日◇東京・後楽園ホール

 東洋太平洋スーパーウエルター級王者のWBC同級8位クレイジー・キム(31=ヨネクラ)が逆転のKO負けを喫した。WBA同級8位ハビエル・ママニ(25=アルゼンチン)と対戦。右ボディーブローを中心に攻め続け、ポイントで先行したが、10回残り1秒、相手の右ストレートでダウンし、そのまま同回3分9秒、KO負け。世界挑戦の夢は遠のいた。ママニは30勝(16KO)5敗1分け、キムは25勝(22KO)4敗となった。


東洋圏無敵の元日本スーパーウェルター級王者(6度防衛後返上)にして、現OPBF東洋太平洋ボクシング連盟・防衛3)・ABCOアジアボクシング評議会・防衛1)の2つの東洋圏のスーパーウェルター級チャンピオンにして、WBC同級8位のクレイジー・キムが、世界への道の途上で無念の敗戦・・・。


スーパーウェルター級といえば昔の言い方で言えばジュニアミドル級であり、過去にこの階級で世界を獲った日本ジム所属選手はたったの3人。82年の三原正以来、20年以上もの間、手の届かない階級。なお、90年代に竹原慎二が、一つ上の世界ミドル級王者になっているが、これは現在に至るまで日本で空前絶後、ただ一人の快挙だ。少なくとも、僕がボクシングのTV放映を意識して見るようになって以来、スーパーウェルター級階級で世界挑戦した日本ジム所属ボクサーを聞いたことがなかった。ボクシング戦績サイト「いや〜んな日々」で調べてみたら、上山仁というボクサーが92年に挑戦し、1RKO負けを喫している。弱かったのかというと、世界挑戦の前後6年に渡って、日本タイトルを20回防衛している。この1敗以外の敗戦は、同じようにウェルター級の国内タイトルを10度以上防衛しながら世界挑戦は実らなかった(1つ下の階級で5RKO負け)吉野弘幸*1に敗れた1敗のみだ。国内レベルでの超安定王者が序盤でKOされてしまう、それほどに、日本・東洋と世界との差が大きい階級ということか。上山選手の惨敗については、急に決まった試合だったのか、準備不足がたたったという声もあるようだが・・・。ちなみに、キムのターゲットであるWBCの現世界王者は、6階級制覇のスーパーチャンプ、オスカー・デラ・ホーヤ


キムの試合は、直前のOPBFABCO防衛戦しか見たことは無い。スピードには欠けるものの、堅実かつパワフルなボクシングで、モンゴル出身の挑戦者を静かに圧倒し、中盤以降にエンジンをかけての9RKO。東洋無敵の評判が頷ける内容であると同時に、世界を獲れるかというとやはり疑問符が付く。そういう階級なのだ。それでも、獲っても不思議ではない、とは思えた。そう思わせてくれるだけでも稀有な存在だといえる。


今回のキムの相手のママニはWBAの同級8位。アルゼンチンのボクサーで、世界タイトル挑戦者決定戦への出場経験(敗戦)のある、掛け値なしの本場世界ランカーだったらしい。世界戦に挑む前にバリバリの世界ランカーとやるというのは、日本では珍しいと思う。選手・陣営としては勇気ある決断で、大いに敬意を表したいが、それだけ挑戦切符をつかむのが難しいということでもあるのだろう。


その相手に、10ラウンド3分9秒KO負け。ノンタイトルなので10Rであり、つまり試合終了まで残り1秒だったということだ。試合はクロスゲームながらキムの優勢で進んでいたとのことで、別の記事によれば、9回までの採点は88-85、87-86、88-86。立っていれば、おそらく三者三様のドローだっただろう。キムは最終ラウンド、ダウン前にもいいのをもらってしまっており、そこからあえて打ち合いに応じてのこの結末とのこと。相手のママニは先に書いたように「バリバリの世界ランカー」だが、世界挑戦権を争って敗れた過去のある「ただの世界ランカー」でもある。想像になるが、この相手に打ち負けていては、この試合は取れても世界は取れない、という覚悟で打ち合いに応じたのではないか。


余談だが、ボクシングの最新情報を知るためによく見ている「yahoo!スポーツ」だが、キムの敗戦はボクシングトピックには採り上げられたものの、「主なトピックス」には採り上げられなかった。ボクシングに興味の無い者の目には、クレイジー・キムというボクサーの存在と敗戦は届かないことになる。

もしかして今日は、と見てみると、「カツラボクサー 発毛して彼女」が採り上げられていた。カツラボクサー小口に罪はないが・・・。

*1:ちなみにこの吉野選手、国内タイトルはスーパーウェルター級まで獲っていて、若き日のキムをその防衛戦で逆転KOで退けており、この試合はファンの間では名試合として評価が高いようだ