ダイナミックグローブ!


昨日放映されたG+のダイナミックグローブがあまりに素晴らしかったのでレポ。あくまで国内レベルのボクシング試合、あまり内容のいい試合がなく、目当てだった新井田の防衛戦も彼の引退でなくなることだしそろそろ解約しようかとも考えていたのですが、たまに国内ホープの素晴らしい試合が見られるからやめられない。思えば8回戦時代の小堀もこの番組で初めて見たのでした。当時から強かった。


まず一つはスーパーライト級ホープ、現日本3位の亀海が、同じ日本ランカーと激突した試合。地方大学ながらボクシングを磨いてアマチュア三冠を取り、名門帝拳でさらに力を磨いているホープ中のホープ。9勝8KO。
相手の伊藤博文はボクサータイプでスピードがあってかつパンチもある、ランカーレベルではいいボクサーなのですが、格が違うとしか言いようがない一方的な内容に。伊藤が普段のスタイルを捨てて打ち合いに来たせいもあったのでしょうが、亀海が近距離でディフェンステクニックを駆使してパンチを外しながら容赦なく強打を打ち込む展開が延々と続き、6回TKO。不安点といえば、ガードが低いせいも合って危ないパンチも貰っているようにみえたことくらいですが、少なくとも今回の試合ではそのことすら不安を感じさせませんでした。


続いて日本ライト級チャンピオン、石井一太郎の東洋奪取。ブログが面白すぎることでも一部で有名でしょうが、ボクサーとしても素晴らしいです。これだけ強打とフットワークを兼ね備えた、トータルなレベルでボクサーとしての魅力に溢れている選手は、なかなか国内レベルではいないと思います。頻繁にタイやメキシコで修行して、世界レベルのボクシングに接している成果もあるのでしょう。見ていて、単なる能力だけではなく、目指しているもののレベルが高い感じがするのですよね。実際今回の試合でも、あの東洋無敵のランディ・スイコ相手に、ボクサーとしての質、試合内容では完全に上回ったように見えました。止まらないフットワーク、緩急やフェイントを交えた頭脳的な動き、そこからの突然の左フックを初めとする力感溢れるキラーパンチ。特に前半はほぼ完璧。普通のボクサーなら倒れているようなベストパンチを何度もスイコに叩き込みました。
中盤にスイコのアッパーがかすって鼻血が出てからは失速し、こちらもハードパンチャーで鳴らすスイコのいいパンチを貰う場面もありました。終盤はダメージというよりおそらく鼻血の影響に寄るスタミナ切れもあって、追い込まれる場面もありましたが、なんとか逃げ切り勝負は判定に。そして2−1のスプリットながら、スイコに東洋で初めて土を付ける殊勲で二冠王者に。
しかしながら試合後インタビューでは、石井本人は中盤からの失速を反省していたようで、『逃げ切ったという感じ』と歯切れの悪いものでした。その気持ちは分かりますが、それでも前半の内容は正当派ボクサーファイターの世界王者誕生を期待させる立派な勝利。あとは解説の葛西氏が指摘していたように、ポイントが取れるジャブでしょうか。
それにしてもランディ・スイコ。石井に比べてスピードと追い足に乏しく、手数も不足と、世界王者になるには何かが足りないことも分かる試合ぶりでしたが、それでも、若しボクシングが昔ながらの『延々と殴り合う』競技であったなら、最強の王者になるのではないかと思わせるタフネスとパワーでした。国内のボクサーで規格外ぶりで張り合えるのは、現世界王者の小堀くらいでしょうか。そう思うと、小堀というボクサーはやはり凄いですね。

あとこの試合、元々二人にスパーリング経験があったためなのか、常にラウンド開始時にグローブタッチをし、試合後は健闘をたたえあう、傍目にも清々しい試合でした。荒々しいファイトをする二人ですし、石井はローブローによる減点を受ける場面もありましたが、それだけになおさら三分間12R以外のクリーンさが際立ちました。スイコは判定に不満があったのか、勝敗発表後には速やかにリングを去りましたが・・・。


そして最後の木村登勇。前述の亀海と同級で、日本タイトルをほぼ全試合圧勝ばかりで12度防衛中の安定王者。9月に挑んだ初の世界戦では、元オリンピアンのコテルニクに判定上は大差完敗でしたが、その内容は『小差のラウンドが重なったもの』で、決して一方的なものではなかったようです。まあその小差をモノに出来るかどうかが世界との差なのでしょうし、テレビ放映された最終ラウンドではダメージと疲れで危ないパンチを貰っている状態でしたが・・・。

対戦相手はランク一位の西尾選手、相手に触らせないディフェンス技術が信条の選手とのことでしたが、これがまた亀海の試合以上の一方的な内容に。一見デタラメに見える木村の前進と無軌道なパンチが、ディフェンス技術に定評のあるはずの西尾選手をいいようにとらえる。西尾選手も自身で武器と公言したカウンターで反撃するが、木村は全く堪えた様子を見せない。頭から突っ込む木村のスタイルから、偶然のバッティングで西尾の目から大量出血があったのも災いし、4Rにいよいよ木村の一方的なラッシュ状態になったところでストップ。


木村の次戦はチャンピオンカーニバルなので、これまた最上位ランカー(小野寺洋介山)との試合になるそうですが、それをクリアすれば、いよいよ再度の世界挑戦か、少なくとも東洋挑戦、階級アップという形で上を目指すしかなくなりそう。個人的には世界のチャンスがあれば行くのは当然として、階級アップよりは東洋王者の金正範との東洋最強決定戦、あるいは亀海とのサバイバルマッチが見てみたいです。帝拳は粟生を榎にぶつけただけではなく、他にも金の卵、有望ホープを時の国内強者にぶつけてきた歴史があるらしいので、海外進出が囁かれる木村が日本王者を返上することがなければ、実現の可能性はないとは言えません。その時は、個人的には榎VS粟生、佐藤VS江口を超える、少なくとも国内では無人広野を行くが如し無敵選手同士の、日本最高級の試合が実現することになります。楽しみです。