ジャンル


桜庭一樹が非ラノベ初の傑作をものした!と鼻息荒く『赤朽葉家の伝説』(以下、『赤朽葉家』)を絶賛したわけだが、その勢いで久々に作者のWeb連載を読んでいたところ、下に引用した部分に目が留まった。『赤朽葉家の伝説』&雑誌『ミステリーズ!』の東京創元社と、『少女七竈と七人の可愛そうな大人』&雑誌『野性時代』の角川書店のそれぞれの編集さん+作者の3名の会話。鼻から脳が出る短編の構想をネタに盛り上がっているくだりだ。

この二人、初対面なのになんでこんなに息がピッタリなんだろう……? わたしがノッてきて「いいですね。それ書こうかな。ミステリー仕立てなら〈ミステリーズ!〉で、恋愛物なら〈野性時代〉でどうでしょう」と言ったら、二人同時に、同じ表情で顔を見合わせて、無言で譲り合っている。あれ、人気ないぞ…… 短編「鼻から脳」……。


そうか!『七竈』と『赤朽葉家』はジャンルが違うのか!恥ずかしながら完全に盲点だった。
作者は、少なくとも一般小説のこの二社(二誌)に大しては、それぞれ特定のジャンルを志向した著作を提供している、と。『七竈』は恋愛物*1であり、『赤朽葉家』はミステリー*2、と。
もちろんどちらも単なるジャンル小説ではないし、ジャンルが小説としての出来不出来に直結するものではない。また、『七竈』を恋愛小説という予備知識を持って読むか読まないかは、少なくとも個人的には、その評価を変えるキーにはならない。思春期のインナーワールド感覚と、母娘関係が重なり合う、通過儀礼的要素の方が強い小説だからだ。恋愛物と思い込んで読んでも、肩透かしの度合いが大きくなるだけのような。むしろ、他の掲載作品を見ても『野性時代』は幅広く娯楽小説一般を対象にしているようだ*3
むしろ、作者がSF、ミステリー的な、謎の提示と解明を主たる要素とする著作を多く書いてきた人であるという先入観から、不当にも『七竈』にも、無意識の内にミステリー的な構造を求め、その欠如に物足りなさを感じた、と言うことはありうる。我が直感は『そういう問題ではないのだ』と言っているのだが、もう少し寝かせておく。


何か一人で高速回転して暴れている人のようだが、いいのだ・・・。

*1:恥ずかしながら、『七竈』が雑誌『野性時代』に連載されていたことすら知らなかった

*2:こちらは書き下ろしのようだが、そもそも東京創元社はミステリー、ホラー、SFといった虚構性の高いジャンルを扱う出版社である。

*3:『赤朽葉家』に関するロングインタビューがこちらに掲載されていたりもするようだ