LOST IN TIME追記
ビデオクリップの試聴が出来るページがあった。ここで『まだ故郷へは帰れない』のPVもフル試聴可能。
http://www.sound-tv.net/artists/lostintime/
やはり微妙だ。とはいえ、フルレングスで聴いたところ、だいぶ印象が変わった。海北大輔のボーカルの味は生かされている。3rdアルバムに収録された『羽化』や『蛍』で見られたような、静かに聴かせる楽曲のよさを損ないかねないような無駄な暴れは無くなっている。というより、海北大輔が望むボーカルラインだけを追求すると、こういうベタな曲になってしまうのだろうか。ということは、メイン作曲者が海北大輔とはいえ、ロストの曲にはギターの榎本聖貴の存在が大きく、音楽性の違いによる脱退という言葉を証明したのがこのシングル、ということになるが。この曲までは参加しているらしいが、脱退が決まっている以上、路線変更を押しとどめる理由がないしなあ。というように、気になったのはまず曲のベタさ。コード進行を説明する知識と耳が無いのが残念なのだが、これは単にギターの代わりにピアノがフィーチャーされてます、という話ではないような。
それ以上に気になるのが歌詞。出稼ぎ人に捧げられていると思しきタイトルには、「故郷を持たない出稼ぎ人」である僕はどこまでコネクトできるか微妙なのだが、こういった不特定多数と共用できるわかりやすい物語を掲げてこなかったロストとしては変化ではある。ただ、歌詞の中身がさっぱり分からない。前半では、「事実を知った今 少年には戻れない」と歌われるが、「事実」とは何なのか、まったく語られない。出稼ぎ人の望郷の物語を詳らかに滔々と語ってほしいわけではないが、色々なものを捨ててまで歌いたかった歌詞がこんな薄いものなのか、と思うと拍子抜けする。「事実を知った今」というセンテンスは、単に都会や大人の汚い部分を知ったというには重過ぎるし、抽象的過ぎる。後半は先に「事実」を知って、苦しみながら都会で暮らしていたと思しき「君」を思い、「君を残したまま 故郷へは帰れない」と歌われる。ここまで抽象的な歌詞では、少なくともタイトルで期待しているような出稼ぎ人、生活者の共感は呼びにくそうだ。もうほとんど、歌声とベタなメロディの持つ悲哀だけで聴かせているようなものだ。この歌詞に共感できるのはもっと思弁的な存在、あえて言うなら、自分が知っている「真実」を世に知らしめようと苦闘する、感傷的な革命家だ。そして、こういう歌詞が成り立つとしたら、歌い手は「事実」「君」の明確なイメージを持っているのだが、それをあえてぼやかしている場合だと思われる。無自覚なら単に作詞の失敗だから、なおまずいのだが。いずれにせよ、タイトルから連想されるような間口の広い曲ではないと思う。
- アーティスト: LOST IN TIME,海北大輔
- 出版社/メーカー: UK.PROJECT
- 発売日: 2006/08/23
- メディア: CD
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