フライ級10回戦 ○亀田興毅 判定3-0(97-93、97-92、99-91) エヴェラルド・モラレス●


亀田は進歩してはいる。特に1Rの動きには期待させられた。前進を基調としながら、出入りもあり、以前ほど一本調子ではない。フライ級に戻したのが功を奏したのか、重量感もある。しかし、そこから発展しなかった。ジャブが少ない。打たれ弱さをカバーするための極度に顎を引いたハの字ガードの前傾姿勢が攻撃のパターンを狭めている上、その体勢から前に飛び込んでいくので、容易にバッティングに繋がる。5Rのダウンシーンは、パンチがあたる直前の頭突きによるダメージだ。レフェリーがバッティングの注意を与えるようになった中盤以降は、打ち終わり狙いのカウンターに終始し、手数もさらに減り、手詰まりの感。加えてモラレスが亀田の前傾姿勢への対策としてアッパーを絡めた手数で押し返してくるようになり、7、8Rあたりには少々危ないシーンもあった。最終ラウンドに亀田が見せ場を作ったものの、そのまま判定へ。採点は最後の一人を除けば、少々甘いが頷ける範囲か。


追記:危ないシーンは、見直したら6Rだった。コーナーでラッシュに行ったところで痛烈なカウンターをもらってロープに突っ込んでいる。その後、足を使ってなんとかラウンド終了に逃げ込んでいるところにダメージの深刻さが感じられる。やはり打たれ弱さは隠せないものの、ここで倒れない精神力と無理に打ち合わないクレバーさが彼の強みではある。彼のビッグマウスが演技だというのは昔から言われていることだが、その正否と評価は置いて、彼は自分の力量、自分に出来る事と出来ないことをかなり把握しているように思える。そして博打を打たない。この試合での負けは許されないのだろうから。今年はじめのボクシング雑誌でのインタビューでも、ポンサクレックを「16度防衛している怪物」と表現していたし。個人的にはやはり彼には無理にKOと前進にこだわらず、打たせずに打つ、技術で魅せるスタイルを目指してほしいと思うのだが、そうするほど足腰に恵まれていないのかもしれない。
それにしてもこの危機を完全スルーの解説陣&実況はどうなのか。オニーはモラレスのスタミナを怠惰に誉めそやす暇があったら試合をよくみてこういうパフォーマンスを拾っていただきたい。

しかしこの試合内容と結果は、フライ級世界ランカーとしての実力証明はできたのかもしれないが、決して喜べるものではないだろう。漂う手詰まり感。実況が盛んに触れていたノールックの左ロングフックにしても、彼の前傾戦法で追加できる数少ない武器の一つだろうが、テクニックとしては詭計の部類に属するものだし。亀田の試合後の冴えない表情が危機感を物語っているように思えた。モラレスは決して弱くはなかったが、亀田のパブリックイメージからすれば圧倒しなければならない相手のはずなのだ。モラレスはまだしももっさりしていたからよかったが、待ちのカウンターが取りがたい動きとスピードがあって、接近戦でコンパクトなコンビネーションを、特にアッパーを絡めてくるような、レベルが高い相手だともっと苦しくなるはず。それがポンサクレック、のはずなんだが。ポンサクどころか、現時点ではまだ日本王者の内藤のほうが明白に上だと思います。


それにしてもスパンキーオニーさんの亀田弁護はいつもながら贔屓の引き倒しというべきもので、かえって聞き苦しい。逆効果だと思うのだが。